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2024.07.26
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2021.11.09
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2021.08.06
ステレオ表記の取り扱い
創薬研究開発の過程では不斉中心を持つ化合物が多く合成されるため、立体異性体(ステレオアイソマー)の化合物情報を管理するための表記方法、構造検索のオプションが用意されています。立体異性体は化学的にいくつかの種類があり、システム上の取り扱いについても複雑です。
ステレオ表記の取り扱い
2021.08.06
MarvinSketch
Chemoinformatics
JChem Engines
創薬研究開発の過程では不斉中心を持つ化合物が多く合成されるため、立体異性体(ステレオアイソマー)の化合物情報を管理するための表記方法、構造検索のオプションが用意されています。立体異性体は化学的にいくつかの種類があり、システム上の取り扱いについても複雑です。ChemAxon社のサイトにMOL V3000形式(※)の解説記事が投稿されましたので、Marvin SketchやJChem Baseにおけるステレオ表記についてまとめてみました。
今回取り扱うのは、立体ボンド(Wedgeボンド:Up / Down, Wiggly)で下記の図に描画されている様な、正四面体不斉中心を持つ立体異性体、シスートランス異性体、軸不斉体の取り扱いについてです。もう少し詳しい情報はChemAxon公式ドキュメントサイト1を参照してください。
※MOL V3000形式について
ステレオ情報はMOL V2000形式ではChiral Flagとして、SMILESでは@と@@により表記されます。しかし、ジアステレオマー・エナンチオマーなどの混合物や、ステレオ情報が不明確な状態を表現できないという問題がありました。これを解決するため、MDLがMOL形式のフォーマットを新しくしたものが拡張ステレオ表記であるMOL V3000形式です。1995年には実装されたため新しい形式というわけではないのですが、ユーザーの表記方法への理解が必要なこと、及びシステム間における互換性の問題もあり、いまだにMOL V2000形式が「.mol」形式として広く使われています。V2000とV3000のmol形式はシステム上互換性がとれるようになっているので、ユーザー視点ではあまり意識したことがないのではないでしょうか。
正四面体不斉中心を持つ立体異性体
Marvinでは立体ボンドを用いて描画された構造は、自動的に絶対配座を認識し、各不斉原子のR/Sを判別します。R/Sラベルを表示するためには、View > Stereo > R/S Labelsから表示オプションを選択します。
また、未定義の不斉原子を右クリック > Stereo > R/SでRかSを指定すると、自動的に各ボンドが立体表記に変換されます。
立体配座が正しく描画されているかどうか確認したい場合、Structure Checkerを使うことにより確かめることができます。Structure > Check Structureよりステレオ表記ルールを含む様々な構造描画ルールを照らし合わせた結果が表示されます。違反した部位が見つかった場合、適切なステレオ表記に修正することが可能です。ステレオ表記ルールについてはIUPACの推奨2に従っています。
MOL V3000 拡張ステレオ表記
Absolute label
MDLの拡張ステレオ表記ではABSラベルを付けることにより、その不斉中心が間違いなく純粋な、描画したままの立体異性体であることを意味します。MOL V2000の「Chiral Flag」と比べると、特定の不斉中心を指しているのか、分子全体を対象としているのかの違いはありますが、ほぼ同じ意味で使われます。MDLの仕様においてはABSラベルを持たない不斉中心は、純粋では無い、ある程度の不確実性を持つ立体異性体だとされています。しかしながら、多くの化学者(及びIUPACの推奨)はABSラベルが無くとも純粋な立体異性体とみなすため、少々違和感のある仕様です。ChemAxonでは標準で「assume absolute stereochemistry」のオプションが有効なため、ABSラベルの無い化合物についても純粋な立体異性体と見なします。
Marvinでは不斉中心を右クリックしてStereo > EnhancedよりABSラベル、およびORやANDのラベルを付与できます。
Or label
純粋な光学活性体が得られており、立体異性体の相対配置は確かな一方、絶対配置については不確かな場合、ORラベルを使うことにより簡潔に表記できます。光学分割により純粋な立体異性体に分離できたことは確かな一方、絶対配置が不明確、または帰属できていない場合が想定されます。不斉中心にORラベルを付与することで取り得る複数の絶対配座を一つの構造で表記できます。この時OR1のように数字を指定すると、同じ数字のORラベルが同時に変化することを指定できます。
例として、以下の枠線で囲ったステレオ表記の場合、エナンチオマーの関係にある2つの内、何れかの純粋な立体異性体を表します。
また、OR1とOR2のラベルを使った下記ステレオ表記の場合、ジアステレオマーの関係にある4つの内、何れかの純粋な立体異性体を表します。
And label
不斉中心にANDラベルを付与することにより、2つのエナンチオマーの混合物であることを表記できます。混合物が1:1の割合で得られた場合はラセミ体を指します。また、カラムなどで分離する際のフラクションにより割合の異なる光学異性体混合物が得られた場合にもANDラベルで簡潔に表記できます。ANDラベルは混合物の割合などの情報は持たないため、後者の場合ではフラクションごとの割合を別にデータとして持たせるか、後でヘリセンの場合で説明するように構造式にデータを付与させるなど、工夫が必要です。化合物登録システムCompound Registrationでは「Chemically Significant Text (CST) field」としてその様な情報を入力できる仕組みがあります。
例として、以下の枠線で囲ったステレオ表記の場合、エナンチオマーの関係にある2つの混合物を表します。もしこれが1:1の割合で得られた場合、ラセミ体を意味します。
さらに、以下のように片側にANDラベル、もう片方がABSラベルのステレオ表記の場合、エピマーの関係にある2つの混合物を表します。
拡張ステレオ表記は使いこなせば立体異性体を簡潔に表記できますが、なかなかにややこしいですね。。
シスートランス異性体
シスートランス異性体(幾何異性体)は二重結合に対する置換基の描画位置により、自動的にcis / trans(E/Z配置)が決定されます。MarvinでE/Zラベルを表示するためには、View > Stereo > E/Z Labelsを選択します。
E/Z が決定できない描画の場合、二重結合に「E/Z」あるいは「?」が表示されます。
軸不斉化合物
軸不斉化合物(アトロプ異性体; a = not, tropos = turn in Greek)についてもMarvinで表示可能です。優先度の高い置換基に対する回転方向により、M(反時計回り)とP(時計回り)で表示されます。
Marvinでは軸不斉の認識について制限があり、ビアリル骨格のオルト位に最低3つの置換基を持つもののみ判別できます。架橋型ビアリル骨格を持つ化合物やマクロサイクリック化合物などは現在のところサポートしていません。
Up/Downボンドを使った立体表記では片側のアリル基にのみに適用させて描画する必要があります。以下の例を参考にしてください。
この他、構造データにテキストとしてステレオ情報を付与することもできます。構造を選択して右クリック > Add > Dataよりclockwiseなどのらせんの向きを付与することにより、ヘリセンのステレオ情報を追加しました。
構造式に付与されたデータは検索条件としても指定することができるため、異性体を区別して構造検索することもできます。しかし、この様に構造以外のデータを一緒に持つ場合、データの所有者以外の人も理解できる情報なのか、あるいはそもそも構造データに追加する必要性があるのかなどに留意する必要があります。構造データとは別にプロパティとして持たせるなど工夫が必要かもしれませんね。
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Stereochemistry: https://docs.chemaxon.com/display/docs/stereochemistry.md
Stereochemistry in MarvinSketch: https://docs.chemaxon.com/display/docs/stereochemistry-in-marvinsketch.md
Stereo specific search options: https://docs.chemaxon.com/display/docs/stereo-specific-search-options.md↩ -
Graphical Representation of StereoChemical Configuration, Pure Appl. Chem., Vol. 78, No. 10, pp. 1897–1970, 2006, doi:10.1351/pac200678101897.↩
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