プロセス化学|創薬・医薬品開発
プロセス化学に携わる研究者であれば、誰もが一度は経験したことがあるはずです。
反応条件を最適化し、収率も良好。ところが、LC分析のトレースを確認した瞬間、想定していなかったピークが現れる。
不純物は、あらかじめ姿を見せてくれるわけではありません。むしろ、開発が進み、軌道修正のコストが最も高くなる段階になって、突然姿を現します。従来のアプローチは、反応を実施し、複雑な不純物プロファイルを観察し、その後に原因をさかのぼって解析するというものでした。つまり、本質的にリアクティブであり、その結果として高コストになりがちです。
ChemAIRSは、この状況を変えるために開発されました。
「想定していなかった」の本当のコスト
予期せぬ不純物は、単なる科学的な厄介事ではありません。事業上のリスクでもあります。規制当局からの照会、IND申請の遅延、後期段階での合成ルート変更、さらには安全性上の潜在的な問題につながる可能性があります。
課題は、有機反応が教科書に描かれる反応機構ほど単純ではないという点にあります。分子中のあらゆる官能基は、潜在的な反応点になり得ます。触媒、溶媒、温度、水分など、各パラメータが新たな副反応経路を開く可能性があります。これらをすべて、反応ステップごとに第一原理から手作業で洗い出すことは、熟練した専門家にとっても時間を要する作業であり、開発スピードを低下させる要因になります。
ChemAIRSが解決しようとしているのは、まさにこの問題です。化学者の直感を置き換えるのではなく、その直感を強力に拡張することを目的としています。

ChemAIRSの活用例:2つの実例
ケーススタディ1:Fostemsavir — 複雑なC–Nカップリングを制御する
HIV-1アタッチメント阻害剤であるFostemsavir(1)は、医薬品合成における難度の高いカップリング課題の一つを示しています。すなわち、ブロモアザインドール3と1,2,4-トリアゾール求核剤4との位置選択的C–Nカップリングです(図1)。1,2
このトリアゾールは、2つの異なる窒素原子を介してカップリングする可能性があります。さらに、リガンド、過剰塩基、溶媒環境との競合反応も考慮しなければなりません。
公表されている合成プロセスでは、広範な条件スクリーニングの末に、6種類のプロセス不純物が実験的に同定されました。言い換えれば、ラボで追跡しなければならない未知の不純物が6つ存在していたことになります。

図1. Fostemsavir(1)の部分的逆合成解析
ChemAIRSが行ったこと
ChemAIRS Impurity Predictionは、1回の解析で、これら6つの不純物のうち5つを同定しました。具体的には、2種類のトリアゾール位置異性体5および6、DMCHDAリガンド付加体7、C-7ヒドロキシド置換生成物8、ならびに脱ベンゾイル加水分解生成物9です。これらは、実際に反応を行う前に予測されました(図2)。
さらに、予測された各不純物について、信頼度スコア、精密質量、付加イオン、同位体分類、不純物の由来、構造アラートの有無が提示されました(図3)。

図2. カリウム塩2a合成におけるプロセス不純物プロファイル
図3. Fostemsavir合成におけるC–Nカップリング反応を対象としたChemAIRS Impurity Prediction解析の抜粋結果
ChemAIRSが自動生成できなかった唯一の不純物クラスは、酸化的二量化生成物10でした。しかし、これは解析の行き止まりを意味するものではありません。ユーザーは既知の不純物を結果リストに手動で追加でき、ChemAIRSはその反応タイプを以後の解析に反映します。使用するほど、システムはより賢くなっていきます。
競争優位性
条件スクリーニングに入る前の段階で、どの不純物を監視すべきか、どの構造アラートを安全性レビューの対象とすべきか、どの反応変数が不純物プロファイルを変化させる可能性が高いかを把握できる。
これは単なる効率化ではありません。プロセス化学の進め方そのものを変えるアプローチです。
ケーススタディ2:Vismodegib — 反応を実施する前に、その挙動を読む
Vismodegib(11、図4)合成におけるニトロ基還元ステップは、紙面上では一見単純に見えます。ニトロアリール12をアニリン13へ還元する反応です。3
しかし実際には、不純物プロファイルは反応条件に大きく依存し、そのリスクは決して小さくありません。
図4. ニトロアリール12からアニリン13への還元、およびVismodegib(11)への展開を示す一般スキーム
低温・低圧条件では、不完全還元によりヒドロキシルアミン中間体14が生成します。さらに、ヒドロキシルアミンの二量化に由来するアゾ副生成物15および16、アゾ化合物のさらなる還元によるヒドラジン誘導体17も生じます(図5)。
一方で、温度と圧力を高めると、ヒドロ脱ハロゲン化生成物18や、環系の過剰還元生成物19が生成します。条件が異なれば、不純物の景色はまったく異なるものになります。
図5. 異なる条件下でのニトロアリール12の還元により生成する不純物
ChemAIRSが行ったこと
反応条件を指定してChemAIRS Impurity Predictionツールで解析したところ、実験的に観察された6種類の不純物14〜19がすべて出力に含まれました。
しかし、ChemAIRSの結果はそれだけではありませんでした。公表された不純物プロファイルには含まれていなかった追加のニトロソ化合物もフラグされました。この化合物は、潜在的なニトロソアミン前駆体としてのリスクを有する可能性があります。
図6. ChemAIRS Impurity Predictionツールを用いたニトロアリール還元解析の入力条件
図7. ニトロアリール還元を対象としたChemAIRS Impurity Prediction解析の抜粋結果
これは、現在の規制環境において非常に重要な意味を持ちます。ニトロソアミンリスクは、FDAおよびEMAの双方から厳しく注視されている領域です。ChemAIRSは、文献で報告された結果を再現しただけではありません。文献では見落とされていた可能性のあるリスクを検出したのです。
競争優位性
規制当局との議論に入る前に、安全性に関わる可能性のあるアラートを能動的に把握できる。
このようなカバレッジこそが、開発プログラムを守るうえで大きな価値を持ちます。
「実施して観察する」から「考えてから実施する」へ
2つのケーススタディに共通するパターンは明確です。ChemAIRSは、不純物発見の起点をベンチ上の実験から計画段階へと移行させます。
どの副反応が機構的に妥当なのか。どの官能基が不安定なのか。どの経路が速度論的に起こり得るのか。反応条件がリスクプロファイルをどのように変化させるのか。
これらを事前に把握できれば、問題が起きてから対処するのではなく、問題を回避するように設計できます。触媒を調整する。水分管理を厳格化する。競合しないリガンドを選択する。阻害剤を加える。こうした判断は、開発初期であれば容易ですが、後期になるほど高コストになります。
ChemAIRSは、化学者の専門性を置き換えるものではありません。その専門性に、先行するための時間的優位を与えるものです。
何が違うのか
市場に存在する多くの不純物解析ツールは、データベース検索型、あるいはルールベースのフィルター型です。前者は、その不純物が過去に観察されている場合にのみ有用です。後者は、構造アラートを提示することはできますが、反応機構上の文脈を十分に扱うことはできません。
ChemAIRS Impurity Predictionは、反応機構に基づいて推論します。官能基化学を理解し、実際の反応条件を考慮します。さらに、ユーザーのチームが結果に追加した不純物から学習し、組織内の知識を蓄積していきます。
その結果として得られるのは、熟練したプロセス化学者の思考に近いツールです。体系的で、機構論的で、常に反応の一歩先を読む。
次の合成ステップで、ChemAIRSが何を見つけるか確認してみませんか?
参考文献
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キーワード: 不純物解析、プロセス化学、創薬、医薬品開発、反応機構