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Design Hubを活用した製薬業界のユースケース:化合物設計を支えるデジタルワークフロー

Chemaxon

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クライアント

科学的理解の進展や、より強力で革新的なケモインフォマティクスのツールや手法が登場する中でも、医薬品化学者たちを常に悩ませる問いがあります――「次にどの化合物を合成すべきか?」という問題です。

今回のクライアントは、ヒト用医薬品、動物用医薬品、そしてバイオ医薬品の受託製造に注力する、ドイツの著名な製薬企業です。世界中に複数の研究開発拠点を有しています。

このクライアントは、「次に何を作るべきか?」という難題に対し、メディシナルケミストリーのグループ、メディシナルケミストリー技術部門、計算化学部門、構造研究部門といったチーム科学のアプローチで取り組んでいます。このシンプルに見える問いが難解なのは、膨大なドラッグライク化学空間の探索、複数の観察パラメータや予測パラメータの最適化、そして膨大かつ異種のデータ、仮説、ワークフローの効率的な分析と管理を要するためです。クライアントは、分子設計チームに、科学的根拠に基づいた迅速な化合物の創出、探索、選定、優先順位付けを可能にする、最高のデジタルワークフロー支援ツールを導入したいと考えていました。

クライアントは2018年から2019年にかけてChemaxonと協力し、Design Hubを共同開発しました。現在では、すべての化合物設計チームにとって中核的なツールとして導入・活用されています。

ソリューション

Design Hubは、クライアントとChemaxonによる一連のワークショップ、ディスカッション、インタビューを通じて生まれました。大きな要件のひとつは、化合物設計と選定に関わる重要なツール、技術、アプローチをすべて統合し、科学的根拠・化合物設計・計算リソースを結びつける、インタラクティブな単一プラットフォームを構築することでした。

これには以下の要素が含まれます:

仮説駆動型創薬

新たな分子の設計および優先順位付けにおいて、合理的なアプローチが活用されていることを保証します。

プロジェクトの概要

Kanbanボードなどのツールを通じて、合成および試験対象となる化合物の進捗状況、現在のステータス、潜在的な停滞ポイントなど、プロジェクトに関するインサイトを即座に把握できるようにします。

アイデア管理

化合物構造のアイデアやその修飾案を記録・蓄積し、優れた着想や知見が失われることなく、必要に応じて検索・確認・再活用できるようにします。

データ統合と予測

その名のとおり、Design Hubは創薬に必要な複数のデータソースやツールを結びつける中核的なハブとして機能します。

  • 予測モデル
    社内データに基づき、DMPK(薬物動態)、CMC(医薬品の製造および品質管理)、安全性などの予測を行います。
  • 社内外のデータソース
    企業の化合物レジストリ、化学在庫、市販の化学品などのシステムと連携することで、提案された化合物が新規であること、出発原料が入手可能であること、必要な試薬を社内で合成するのではなく市販品として購入することが確認でき、無駄な作業を防ぎます。
  • データ駆動型の推奨機能
    ユーザーは最適化パラメータを設定することで、過去の観察データや予測値に基づいた構造修飾のリアルタイム提案を受けることができます。

  • 3Dモデリングとドッキング
    リガンドの立体構造やドッキングの検討に活用できる外部システムとの連携が、Design Hubの内部から利用可能です。

  • 安全性アラート
    高い反応性や代謝不安定性など、望ましくない性質を持つ構造要素が含まれている場合に、警告が表示されます。

クライアントの学際的な化合物設計チームは、Design Hubに専用の「デザインルーム」からもアクセス・利用することができます。

これらにはタッチ対応の大型スクリーンやインタラクティブホワイトボードが設置されており、前述のすべてのアプリケーションやデータソースに即座にアクセス可能です。このコラボレーション環境は、化合物の優先順位付けだけでなく、デスク上で行うような作業――デ・ノボ設計、構造検索、列挙、物性予測など――もサポートします。
新たに設計した構造は、合成可能性、3Dタンパク質相互作用に関する予測モデル、物理化学的およびADMET(吸収・分布・代謝・排泄・毒性)プロパティ、さらに文献や商用データベースでの新規性検索に基づいて評価することができます。

Design Hubの活用状況

クライアントのチームは、化合物設計に関連するさまざまな目的でDesign Hubを活用しています。デザイナーを対象とした利用状況調査では、非常に前向きな結果が得られました。回答者の97%が、以下の最初の4つのDesign Hubの機能を「頻繁に」または「時々」使用していると回答しています:

  1. 新規化合物の設計
  2. 設計会議における新しいアイデアのレビューおよび優先順位付け
  3. 他者が作成した仮説や設計セットの編集・加筆
  4. チームメンバーとの設計内容の共有
  5. 設計から登録までの化合物の進捗状況の追跡
  6. 合成計画の立案およびラボとの連携

クライアントは、各設計チームがDesign Hubをどのように活用しているかについても詳細に分析し、チームごとの多様なワークフロー――組織体制、会議準備、会議中、会議後の活動――を比較しました。あるチームでは、あらゆる新しい仮説や設計セットの作成を受け入れている一方で、別のチームでは、構造クラスや特定の繰り返し議論されるテーマに基づく仮説に限定しているケースもあります。また、合成計画との連携方法にも違いが見られました。あるチームでは化合物を別途記録し、後日ディスカッションを行うのに対し、別のチームではDesign Hubの設計セットエディタ内に直接合成計画を保存し、担当の研究者に割り当てるという方法を取っていました。

このような詳細な分析により、いくつかの重要な学びと、Design Hubの将来的な拡張・機能強化に関する示唆が得られました:

  • ライブセッションへの対応は極めて重要(例:プレゼンテーションモード、複数タブの利用、動作パフォーマンスなど)

  • レビュー準備完了(Ready for review)となった化合物のバックログ管理のために、アーカイブ機能が有用

  • 多数の仮説や設計セット、およびその概要を整理・保持する機能は不可欠

  • 合成計画およびラボの研究者との連携を、日々のワークフローにより自然に統合することが望まれる。これにより、手間がかかりやすくエラーの起こりやすい転記作業を回避できる。別の選択肢として、合成計画を設計セットに含めることで、チーム全体に対して高い透明性を確保する方法もある。ただし、この場合には現行の設計セットエディタが合成計画に関して十分な機能を備えていないという課題がある

モジュールの追加と機能拡張の柔軟性

クライアントは、Design Hubにカスタムモジュールを追加できる柔軟性を高く評価しています。中でも「Structural Alerts(構造アラート)」は、提案された構造に潜在的な問題のある部分構造が含まれている場合に、リアルタイムでデザイナーに通知するスマートアシスタントとして好例に挙げられています。その他にもすでに複数のモジュールが導入されており、今後さらに追加される予定です。

クライアントは、Design Hubを今後さらに自社のデジタル環境にシームレスに統合された中核的ツールとして位置づけており、「ベスト・オブ・ブリード」戦略における重要な要素と見なしています。すでにいくつかのインターフェースは実装されており、たとえば Certara D360プラットフォームとの統合、合成原料を検索・発注できる化合物管理システムとの接続、社内のデータ駆動型ツールからリアルタイムで提案を行うスマートアシスタントなどが含まれます。

さらに今後予定されているDesign Hubとの接続には、化合物情報を自動レトロ合成ツールへ送信する機能、CRO(受託研究機関)向けの合成管理ツールとの連携によるステータスの受信、そしてクライアントの電子実験ノート(ELN)システムとの統合などが含まれています。

プロジェクト開始以降に導入された主なアップデート

  • ワークスペースの整理と明瞭化のために、「アーカイブ」機能を導入しました。これにより、合成済みまたはキャンセルされた化合物アイデアをKanbanボードから除外できるようになりました。また、Kanbanボード自体にもカスタマイズ機能を追加し、ワークフローの一部やプロジェクト内の特定のタスクに焦点を当てやすくなりました。
  • アプリケーションの操作性向上と個別最適化を目的に、「ビュー・テンプレート」機能を追加しました。これにより、ユーザーは自身の好みに合わせた計算設定やレイアウト構成を保存・再利用でき、異なるプロジェクト間や同一プロジェクト内の異なる文脈でも効率的に活用できます。

  • チーム内の連携強化と最新情報の共有を促進するために、化合物に対するコメント内で@メンションを用いたユーザー通知機能や、アプリ内通知機能を導入しました。これにより、タスク支援が必要な同僚とのつながりが容易になり、チームメンバー全員が常に最新の状況を把握できます。

  • 候補化合物の優先順位付けと選定をより効率的に行うために、設計セット内で複数の参照化合物を利用できるようにし、さらにドッキングや結合ポーズ予測などの複雑な予測結果をスプレッドシートビュー内でインタラクティブに可視化する機能を追加しました。

  • 自社開発の新システムとの統合を容易にし、Design Hubが保有する膨大な仮想化合物データベースを最大限に活用するために、アプリケーションのREST APIを大幅に拡張しました。

まとめ

Design Hubは、コラボレーションと統合を重視したアプローチを実現し、科学者たちに対して仮説駆動型の創薬、データ統合、予測モデリング、合成計画などを支援する包括的なツール群を提供します。このプラットフォームの柔軟性により、研究の進化と組織の目標に適応し続けることが可能です。クライアントの導入事例が示すように、Design Hubはワークフローを効率化するだけでなく、科学的根拠に基づいた意思決定を後押しします。

Chemaxon
執筆者:Chemaxon

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