2021年の1QにMarvin Sketchのアップデートがあり、Marvin Sketch上で各種化学計算を行えるようになりました。これまでCalculator Pluginsのライセンスを持っていないと正規版として利用できなかったのですが、その制限がなくなったため、Marvin Sketchのライセンスを持っているだけで利用可能になります。つまり、アカデミックライセンスをお持ちの場合は無料で利用できます。Marvin 21.x以降のバージョンが対応していますので、古いバージョンをお使いの方は最新化をお願いします。
この変更により、化学構造を描画すると同時に物理化学特性、ADMETの各種化学計算や、構造分析を行うことができるようになります。特にChemAxonのCalculator Pluginsは創薬分子設計において重要な指標である酸乖離定数、分配係数、水溶性の計算について定評があり、スクリーニング用途で広く使用されています1。最近では機械学習を使ったADMET特性の予測にも力を入れています2。
この機会に、ぜひChemAxonの化学計算プラグインを使用してみて下さい。
pKa, logP, Solubilityなどの計算は分子特性を評価するモデルに大きく依存するため、様々な計算ツールが存在します。精度の高い計算ツールを選択するためには、実験により求められた値と比較し、計算精度を確かめる必要があります。ChemAxon社は最近、AstraZenecaとHongping Zhaoのデータセットを用いた、実験値との比較レポートを公開しています。
How do predicted pKa and solubility values compare to reality?
https://chemaxon.com/publication/predicted-pka-and-solubility-values
また、詳細な予測精度に関するレポートを公開しており、随時更新されています。
Calculator Pluginsは以下の方法により利用できます。
この内、Marvin Sketch上で利用する場合、以下の機能は使用できない制限があることに留意ください。
つまり、Marvin Sketchではあくまで描画した化合物の計算値を確認する用途、でご利用下さい。SDFを読み込ませて一括で化合物の計算値を求めるような用途には、その他の方法が選択肢となります。
Marvin Sketchに化学構造を描画した後、「Calculations」のタブから計算方法を選択することで利用できます。
本記事ではいくつかの計算方法をピックアップして紹介します。詳しい説明はユーザーガイド、あるいは理論的な背景について説明したページ、を参照下さい。
元素組成の分析結果が表示されます。原子量テーブルについては「IUPAC atomic weights of the elements」が使われています。カスタマイズすることで独自のテーブルに変更することも可能です。
ちなみに、同様な分析結果をStructure > Place Analysis Boxによりキャンバス上に挿入可能です。ショートカットは「Ctrl + I」。
pKa計算ではAcidic, BasicなサイトのpKa値が計算され、各pHにおけるイオン体の存在比と共に表示されます。ChemAxonでは、官能基のプロトン化形式により、pKa値を赤と青で表記します。塩基とその共役酸の場合([HAH]+ ↔ AH)青で表記し、酸とその共役塩基の場合(AH ↔ A-)赤で表記されます。
logD計算ではlogD vs pHカーブが表示されます。ChemAxonでは、logP計算に1)Consensus、2)ChemAxonのモデルを選択することができ、それぞれいわゆるClogP, AlogPと見なせます。
The Consensus logP method is a unique, in-house developed logP model based on the methods listed above. Comparison-wise, our Consensus logP method is similar (but not identical) to the ClogP method, while our ChemAxon logP method is similar (but not identical) to the AlogP method.
計算方法の詳細については説明ページを確認下さい。
水溶性(mg/ml or mol/ml)について、対数表記のlogS vs pHのプロットが表示されます。また、そのpH7.4における水溶性を評価します。
low : if solubility is < 0.01 mg/ml
moderate : if solubility is between 0.01 and 0.06 mg/ml
high : if solubility is > 0.06 mg/ml
2021年にChemAxonよりADMETプラグイングループが新たに追加されました。その第一弾として、心毒性に関与するhERG阻害能を予測するプラグインがリリースされています。最近ですと、APAC向けにオンラインセミナーも開いていただきました。機械学習の手法を取り入れた信頼性の高い予測モデルを作成しています。現在このプラグインでは、hERG受容体阻害能に関するActivityの対数値pAct = -log10(Act)
が表示されます。
POであるÁkos Tarcsayのプレゼンテーションを見ると、この分野における力の入れようが伝わってきます。今後も改良されていくと思いますので、期待大ですね。
Charge Pluginを使うと、電荷分布について3Dモデルで表示されます。
1H-NMR, 13C-NMRのケミカルシフトが予測されます。
Tautomersは互変異生体についてその存在比と共に計算します。
Conformersでは、Dreiding、あるいはMMFF94の力場を使った配座解析が行われ、安定化エネルギーと共に3D構造が表示されます。計算結果はMOLファイルなどとして出力可能です。
Polar Surface Area (2D) Pluginsを使うと、膜透過性の指標であるTPSAが計算できます。
CNS MPO Score Pluginsでは、Pfizerにより提唱された4中枢神経系作用薬の指標であるCNS MPOスコアを計算します。
創薬プロセスでは、設計した化合物の物理化学特性・ADMETパラメータを最適化し、ターゲットのプロファイルを満たすようにバランスを取る必要があります。この化合物設計プロセスの効率を高めるためには、必要な情報が効果的に統合されたツールを使うことで、設計と計算値の参照によるフィードバックを相互に反復して参照することが重要です。今回のアップデートにより、Marvin Sketch上でそのプロセスが完結できるようになったため、大変使いやすいツールとなりました。
一方で、化合物設計の場面において、よりインタラクティブな操作性・チームによるコラボレーション・データ共有と管理、という面においてより良いツールを求める声があります。この背景からエンタープライズレベルのソリューションとしてDesign Hubが昨年度にリリースています。Design Hubは柔軟なカスタマイズが容易に行えるように設計されているため、各社のニーズに合わせてプラグインの取捨選択、他システムとの連携に対応します。
また、設計と化学計算の参照に対するインタラクティブでコンパクトなソリューションとして、Playgroundというツールが開発中です。まだデモ段階ですが、モダンなUIでブラウザからアクセスできるツールなため、場所を選ばずに研究を進めることができそうです。
お気軽にパトコアまでお問合せ下さい。
J. Manchester, et.al., J. Chem. Inf. Model. 2010, 50, 4, 565–571↩
Calculator Plugins: https://chemaxon.com/products/calculators-and-predictors↩
Trainable model: https://chemaxon.com/presentation/trainable-models↩
T.T. Wager, et al., ACS Chem. Neurosci. 2010, 1, 6, 435–449 ↩